唇にキスを、首筋に口づけを



どくん、どくん、



なんで私はこんなにも緊張しているんだ。



・・・緊張してもおかしくはないか。



だって見知らぬ土地にいるんだから。




ヤツが口を開くまでがとても長く感じる。




あ、喋り出す。




口の開き方で最初の母音の音まで分かる。




そんなところまで私は神経を尖らせていたみたいだ。





「魔界」




ヤツはそう言ってニヤリと口角を上げた。



・・・あ。




なんだ、この感覚は。




上手く表現できない。




しいて言うならば、



高さ3mくらいの崖から落とされたみたいな感じだろうか。




なんとなく、予想はしていたし、


その分、それほどまでに絶望感を感じないと言うか。




それでも少しはショックなわけで。





私は目を泳がすしかなかった。





「お前を魔界に連れてくるのは簡単だったよ。



ゆりな自身が境目だからな、


境目を通るのにそれほどまでに労力はかからなかった」




・・・そんなこと誰も聞いてないわ。




ぽつり、心の中で呟いた。





「んま、助けが来るのを願ってれば?


多分、意味なんて皆無だろうけどな。」




そう、捨てるように言い放ったヤツは扉を開けて出て行った。




・・・バタン、


孤独な部屋に、そんな虚しい音が響き渡った。



< 113 / 257 >

この作品をシェア

pagetop