「キカイ」の子
海水浴場を出た冬彦達が、最初に待ち合わせた岸駅に着いた頃には、もう午後八時を回っていた。






夏美の口数が浜辺を出てから減ってしまったので、二人はあまり話すことなく、帰り道が分かれる十字路に着いた。





すると、冬彦が夏美に声を掛けた。




「それじゃ…」





「うん…また…ね。」





夏美はぎこちなくそう言うと、家の方へ歩き始めた。






「……夏美!」






彼女の後ろ姿に、胸がざわついた冬彦が、声を掛けた。






夏美は、驚いて、体を一瞬震わせたが、振り返らなかった。





「何?…冬彦。」




夏美が彼に背を向けながら言った。



彼女の声は、ほんの少しだけ、震えていた。







冬彦は、その時、何と言えばいいか分からず、黙っていた。





「また…ね。」





しばらくの沈黙の後、彼はそう言うだけで、精一杯だった。






夏美は何も返さずにその場を去り、冬彦はその後ろ姿が見えなくなるまで見送った。
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