雪割草
 シローには多少意味不明な箇所もあったが、話の内容はほぼ把握した。

「ヘエー、それじゃあ、あんた売春婦なんだ?」

 何の悪気もなくシローは訊いた。

「チョット、おっさん!あったまくる事言うね!」

 少女は、少しキレた。

「あぁー、ごめん、ごめん」

 頬を緩ませ、薄笑いを浮かべてしまった。

 さっきまでの緊張感が少しづつほどかれ、カラリカラリと、リヤカーのタイヤの音が心地よく耳に届いていた。

少女は機嫌を直したらしく、落ち着いた声でシローに訊いた。

「あのさー、おじさん」

「なんだ?」

「名前は何てゆうの?」

「えっ?どうしたんだ?急に」

「別にいいじゃない。なんてゆう名前?」

 シローはリヤカーを引きながら、後ろを振り向いて言った。

「君は、なんてゆうんだい?」

 少女は窮屈にしていた上半身を、ブルーシートから出し、両手を伸ばしながら答えた。

「あたしは゛カナ゛

中谷 香奈ってゆうの。いい名前でしょ!」

 初めて見せた少女の笑顔には、透明感にも似た新鮮さがあった。

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