雪割草
 シローは男の話を聞き終えると、少し間を置き重い口を開いた。

「あの……。

あそこのトイレの横に停まっているリヤカーの荷台には、俺の奥さんだった人が眠っています……。

彼女は数日前に俺の不注意で死んでしまいました……。

たった三年間の短い結婚生活でした……。

私達は段ボールハウスで、その日その日を暮らすようなそんな慎ましい生活だったんです……。

それでも彼女は死ぬ間際、最後の力を振り絞りながら、

゛とても、深い三年間だったわ……。゛

そう、言ってくれたんです。

俺はその時、彼女に教わった気がしました。

人と人との繋がり……。

特に愛情というものは……。

過ぎた時間の長さではなく……。

想いの深さなんだという事を……。

あなたにも、きっと……。

これから、良い事がたくさんある筈ですよ」

 シローは深く頷いてから、目配せをするように男を見つめた。

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