雪割草
 瞼は凍っていた。

 読み終えた便箋をシローは元の折り目通りに畳み、小さく頷いてみせた。

愛とは絶望ではなかった。

そこには絶望の欠片など、一辺も記されていなかった。

美枝子が急いで書いたのであろう、しわくちゃの便箋を……。

そっと、胸にしまい込んだ。

そしてーー安らかに眠る彼女の顔を、いつまでも見つめていた。

どんな夢を見ているのだろうか。

約束を果たそうとする自分のこれからを、思い描いているに違いない。

シローは目尻に浮かんだ涙を拭いながら立ち上がり、胸に手を当てた。

彼女の望みはいつも、小さな一歩だった。

それは、小さな花びらに例える事が出来るのかもしれない。

美枝子の唇には、光る雪の結晶が浮かんでは消えた。

次第に雪は消える事なく、彼女を覆い隠していった。

 これから長い雪の季節がやって来るであろう。

野原は白い雪で染められ、草木はひっそりと息をし始める。
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