雪割草
 何十年振りかに、そんな新しい上着を手に入れたシローは、みんなに見せて自慢したいくらいだったが、美枝子がせがむので先にお祭りに行く事にした。

 十二支社通りに着くと、既に人でごった返していた。
いつもと違う通りの風景には多少の戸惑いがあったが、とりあえず美枝子と露店を端から見て歩く事にした。


「それにしても、今って色んな露店があるものなのねえ」

 美枝子が周りをキョロキョロ見ながら言った。

「あぁ、そうだなーーー俺達が小さい頃は、綿菓子と形取りぐらいしかなかったのに」

「わたし形取り得意だったのよ!結構、それでお小遣い稼いじゃったりして……。」

 子供の頃を思い出すようにはしゃぐ美枝子に、

「最近は形取りって無いのかな~」

 シローは背伸びをして周りを見渡し、爪先立ちで歩いた。

「いいの、いいの。こうしてお祭りを見ているだけで充分よ」

 一歩前を歩く、美枝子の黒髪が風にそよいだ。

シローはポケットの中から全財産のトランプのケースを取り出し、

「今日はジャンパーのお返しに、何でも好きな物買ってあげるよ。
お金の事は心配しなくていいからさ!」

 美枝子の耳元でガシャガシャと鳴らした。

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