月夜の物語
ぎし、ぎし、と気の床が軋む。
暗闇にろうそくの灯りと、自らの影だけが浮かんだ。
昨日と何も変わらない光景。でも、新の心の中にいたずら心などなかった。
警備などそっちのけで、一目散に向かったのは、あの部屋。
部屋の前にそっと近寄ると、中からはやはり苦しむ泣き声が聞こえた。
毎日毎日、それもただ独りで。あの女性がこの暗い部屋で泣いていると考えると、新の胸はきつく痛んだ。
ごくり、生唾を飲む。
今日はふすまのこちら側から、話しかけてみようと思ったのだ。
ふすまをノックしようと軽く拳を握った時、昨日は見受けられなかった頑丈そうな鍵が目に入った。
「……鍵、」
やはりこの部屋に居るのは、姫だ。
間違いない。