たった一つの流れ星
朝食を食べると、いつも通り仕事の準備をした。昨日の件を謝ろうとしたが、言いそびれてしまい、夜にしようと決めた。あの変な夢のことも話さなかった。亜紀もいつもと変わらない様だったし、あんまり気にしてなかったのかもしれない。
佑二はスーツに着替え、深呼吸した。今日は昨日のミスの件で長い1日になるだろう。だが佑二はもう全てを受け入れることにした。そんなミスや処置がなんだ、俺には帰ってきたら亜紀の笑顔があれば充分だ。
「はい、ハンカチ」
靴を履いている佑二に亜紀はハンカチを渡す。これは…そうだ。まだ付き合いたての頃、亜紀から借りたことがあるハンカチだ。空色の生地でハートの柄がある。佑二はハンカチを握りしめる。よし、頑張れそうだ。
「じゃ、行ってくる」「行ってらっしゃい!」
佑二は玄関のドアを開けると一歩を大きく踏み出した。
しかし、そこにはあるはずの地面がなく、佑二は体のバランスを崩した。
「うわっ?」
前のめりになる。なんだ?どうなってんだ?亜紀の声がする。
「佑くん!行かないで!」
佑二はそのまま前に倒れた。ぽっかりと空いた穴の中へ。
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