いつか、きっと。




「――ありがとう…」





小さすぎるつぶやき。



だって、お母さんに“ありがとう”なんて言う機会なんてあまりないから。



少し照れ臭くて。





もしかしたら聞こえていなかったかもしれない。






「…行ってらっしゃい、皐月」





だけど、微笑んだお母さんの顔を見たら、きっと聞こえていたんだと思う。



何だか嬉しそうだったから。




お母さんがドアの向こうに消えるまで、ずっと見つめていた。





『皐月』



「……聞こえたのかな…」





ぽつりとつぶやいた私に、鏡夜がフッと笑った。





『聞こえてたよ、きっと』



「そっか…」





何だか恥ずかしくなって顔を俯かせる。
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