極超短編劇場
昔は、雨上がりの匂いが好きだった。

何かが始まりそうな、ワクワクした気持ちになった。

でも、ある日、それが雑菌が発する物だと聞いて少し傷付いた事を覚えている。

窓の外では、突然降り出した雨に人々が顔を上に向けている。

ある人は、傘を開き

ある人は、小走りに、雨を避け始める。

「はあ。」

私は、窓際の席から喫茶店を軽く見渡す。

当然彼の姿は無い。

『離れたく無いんだ。』

別れを切り出した私に彼は言った。

『明日12時に、駅前の虹って言う喫茶店で。』

なんて、言っておきながら。

『急な仕事なんだ、仕方無いだろ!』

私を散々待たせた挙げ句だ。

修羅場を想像したのに力が抜けた。

『仕事と私』論は、私も嫌いだけど、さすがに・・・ねえ。


目の前では、二杯目の紅茶が空になろうとしていた。
「よし。」

私は、携帯のメモリから、(元)彼氏の名前を消去すると力を込めて立ち上がる。

紅茶二杯分のお金を払い店を出ると、雨は上がっていた。

雨上がりの匂い。



やっぱり何かが始まる様な気がした。
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