極超短編劇場
小雨のぱらつく商店街を傘をさして歩くと何だか不思議な気分になった。

子供の頃はもっと賑わっていたこの商店街も今は閑散としている。

思えば、実家を出る前、車を買ってからすでに一方通行のこの道は余り使わなくなっていた。

軒並みシャッターの閉まる中、同級生の実家である雑貨屋が細々と商いを続けていた。

ただ、懐かしいより自ら捨てた町と言う感情も有り、足早にその前を通り過ぎる。

もうここを出て十年になるんだなあ。

そう言えば三年前から子供神輿の担ぎ手が減って女の子も混ぜる事になったと聞いた。

僕達の時代は男の子が順番待ちをしていたと言うのに。

早めた足を徐々に緩めながら顔を上げると二人の少年がこちらに向かい歩いていた。

下校途中だろうか、一人は低学年で黄色いカッパをきて、もう一人はその兄だろうか、傘をさしながらカッパから出る小さな手を引いていた。

兄が着ている制服には見覚えが有った。

どうやら我が母校の後輩らしい。

ランドセルに吊した割烹着入れが懐かしい。

すれ違い際、兄が不審そうな目付きでこちらを見てきた。

ぼんやり見つめすぎたみたいだ。

思わず苦笑いが浮かぶ。

次の角を曲がれば実家に着く。

でも懐かしい我が家はもう無い。

年老いた両親が傷んだ家を出てマンションに越す事に為ったからだ。

重機に踏み荒らされたそこを見て少し込み上げる物が有った。

砕かれた小さな板の中に懐かしいヒーローのシールが雨に濡れていた。

幼稚園の頃、茶の間の壁に貼った物だ。

拾うかどうが一瞬なやんだがやっぱりやめた。

長い間世話になっていたんだなあと改めて思い直す。

空き地になったそこに記憶の中に有る建物を重ねて見る。

とても懐かしい。

「ありがとう、さようなら。」
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