そして、抱きしめて。

理想と現実

また金曜日がやってくる。

月曜日から木曜日、そして週末は会わない。
家庭を壊したくない。
それが彼の言い分だ。

あたしと会っている時点で、その意に反している…と思うのだが、
彼は彼で、あたしと奥さんとの間にボーダーラインを引いている。

それがやけに悲しい…、いや、虚しい。

金曜日までめいっぱい仕事をし、金曜日は仲間と羽目を外す、または残業だと偽り、週末は家族サービス。

彼は強い人だ。

精神的にも。

決してバレない。


でも、
そんなあたしたちにも危機的な瞬間は訪れた。


奥さんに、金曜日の秘め事が、気付かれそうになったのだ。


あたしは内心、バレてしまえばいいと思った。

でも、彼があたしと妻、どちらを選ぶのか気にもなったし、修羅場になってしまったなら、もしかしてこういう生活から離れられるんじゃないかと、

一方で期待をし、
もう一方で、別れという結末もアリかな?などと考えていた。



でも実際には、
彼と泊ったホテルの領収書が見つかっただけで、あたしの存在そのものがバレたりはしなかった。


『嫁さんにバレたかもしれない…』

少し気まずそうに、そして、少し自信ありげに彼はそう言った。


『バレるかもしれないって事?』

『いや、多分大丈夫だよ。俺を信用してるし。ゆきには迷惑を掛けないよ。』


『自信あるのね。』

『あぁ。大丈夫だよ。』


内心、ホッとしていた。
終止符が打てると。
この暗い闇の中から、抜け出せるのではないかと。

でも、次の金曜日、彼はあたしに言った。


『嫁さん、疑いもしなかったよ。』

『なんて説明したの?』

『残業で終電もなくなったから、適当に見つけたホテルに泊ったって。』

『それで奥さん納得したの?』

『あぁ。』

『奥さんに信用されてるのね。』


『そういう事になるね。』


信じられなかった。
ホテルの領収書を見つけただけで、あたしなら一番最初に浮気を疑う。
ありきたりな嘘でこうも簡単に信じてしまえるんだろうか…。

彼は余程、家庭では良き夫を演じているのだろう。


また離れる機会を失った。

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