王子様はルームメート~イケメン彼氏とドキドキ寮生活~

五話


「ダメ。眠れない」

 綾菜は勢いよく毛布をめくった。

 眠れるはずがない。

 テーブルスタンドの光量を最大にする。

 蝶をモチーフにしたステンドグラスのランプシェード。

 光を受けて、壁に赤と紫の影が映る。

 幻想的で大好きな光景なのに、今日だけは不気味に感じてしまう。

「……この蝶、今、動いた?」

 ステンドグラスの模様が動くはずはない。

 幽霊の正体見たり枯れ尾花――確か、こんな日本のことわざもある。

 疑心暗鬼になっていると、枯れたすすきの穂まで幽霊に見えてしまう。今も同じ。

 この蝶も、ただの模様。疑っているから動いたように見えるだけ。怖がる必要はない。

 綾菜は自分に言いきかせた。

 ――けれど。

「正体を知っていたって、怖いものは怖いのよ」

 まばたきをするたびに、影が微妙に位置を変えている気がする。

 錯覚だとわかっていても、恐怖は理性とは関係なく生じてくる。

「無理。ここでは寝られない」
< 122 / 191 >

この作品をシェア

pagetop