ちっぽけな世界の片隅で。
(7)


輪唱。きこえるのは、鳴き声じゃなく、羽音。

アブラゼミ。ミンミンゼミ。ニイニイゼミ。クマンゼミ。ツクツクボウシ。

セミの命は、たしか十日間だっただろうか。

とほうにくれるような長い時間を、土のなかですごして、やっと光を浴びる瞬間は、ほんとうに、わずかで。


かわいそう。

みんな、そう言う。十日しか、外で生きられないなんて、かわいそうだね。わたしたちは、しあわせだね。


ねえ、でも 、それは本当?

だって、外で生きていくのは、とても、とてもむずかしいことだから。


十日だけ、と決められているから、セミたちは、思い切り鳴くことを惜しまない。

自分の気持ちをつつみかくさず押し出して、最悪の結果になったとしても、どうせ、十日で死ぬんだ。


死ぬ時期がわかっていないから。
生きる時間が長いから。

わたしたちはきっと、自分の気持ちを閉じこめる。

気持ちを殺して、必死につくる、生きやすい世界。






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