ちっぽけな世界の片隅で。
(1)


東京。大阪。長野。兵庫。大分。


時刻は午後、十時すぎ。全国の悩みが、たった今、わたしの耳に流れ込んでいる。


寝る前に、ラジオを聴くのは習慣。ちょっとかっこいいかなぁ、なんて始めたら、だんぜん、テレビよりハマった。

発信源は、中学の入学祝いで買ってもらった、水色のステレオ。

赤っぽいピンクとどっちにするか悩んだけれど、やっぱりこっちで良かったと思う。

ピンクだったら、地味な部屋では浮いてしまっただろうから。茶色ばかりのこの部屋に、血液を送りこむのは、水色の、シンゾウでいい。


BGMとして、でも、歴史の授業よりはすこし真剣に聴きながら、わたしは目をつむる。

広島の中学生女子、ペンネーム・うさぎプリンさんの悩みを、低いお兄サンの声が、代読する。


「好きな人には、好きな人がいます──これは、切ないですね~」


スキナヒトニハスキナヒト。セツナイデスネー。

頭の中で復唱して、思う。


切ないって、説明するとしたら、どんな気持ちなんだろう。


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