幕末怪異聞録


そんなことが新選組であったなんて知りもしない時雨は呑気に過ごしていた。


「只今戻りました!」


勝手場に入るとお登勢が「お帰り。」と迎えてくれた。


「時雨ちゃんありがとうね。
もうやることやったから部屋で休んでええよ。」


「そうなんですか?
じゃあお言葉に甘えます♪」


そして時雨は足取り軽く部屋に戻っていったのだった。





「おや、時雨ちゃん仕事はもう終わったんか?」


「あ、伊助さん!はい!もうやることないってお登勢さんに言われました!」


寺田屋の宿主である伊助に階段を登った所で鉢合わせた。


初めて会ったとき警戒をしていたが、今はそれが申し訳ないと思う程仲良くなっていた。


「いや~…
最近時雨ちゃん女らしくなったというか、品が出てきたなあ。」


「あ、そんなこと言ってるのお登勢さんに言いつけますよ?」


「はははっ!それは堪忍してやぁ。」


伊助とこんな冗談を交わすくらいの仲になっていた。


(なんか心が温かくなる…。)


時雨は寺田屋で、忘れかけていた“心の幸せ”を感じていたのだった。




< 142 / 321 >

この作品をシェア

pagetop