幕末怪異聞録


そして部屋へ入った土方は机に向かい、「邪魔すんじゃねぇぞ。」と睨みを効かせて仕事をやり始めた。


「……。」


(昨日の今日でお疲れなこった。)


そんなことを思いながら窓際に移動し、土方の煙管を勝手に吸い始めた。



「――土方。」


「何だ。」


「―――ありがと…な……。」


時雨の思わぬ言葉に驚き筆を止めた土方だったが、すぐに筆を走らせた。


「一体何のことだ。礼を言われることをした覚えがないな。」


「そうかい……。」


外では蝉がひしめき合って鳴いている中、この部屋は些か静かに感じられた。


「―――私は明日、江戸へ帰るよ。」


「―――!?」


完全に筆を止めてしまった土方は、時雨の方に首を向けた。


そこにあったのは時雨の笑顔だった。


「世話になったな。」


「――あぁ。」





こうして時雨の復讐劇は本人にとって色々なものを残して終わった――――――――…………






『復讐篇』【完】
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