クロトラ!-妖刀奇譚-




――頭は勝手に、フルスピードで未来図を打ち出していく。









沙市はただ呆然と、自宅への道を"母"の後に従って歩いた。






不思議と"母"を非難する言葉は浮かんでこなかった。そういう感情は確かに湧きあがっていたのに。


というか、あまりに色々なものがぐちゃぐちゃに混ざり合って胸の中でひしめいているので、どんな言葉も声にならなかった。










――自分が一人ぼっちなのは、運命だったのだ。だから、誰も責められるべきじゃない。

そう必死で思っていたから、沙市は今までグレたりひねたりしなかったのだ。「不幸な境遇なのにそれに負けない強い子」と褒められてきた。…だけどそれは、真実を知らなかったからにすぎなかった。




現実には、当然憎んでいい相手がいたのだ。



沙市は今や、憎しみや怒りをぶつけていい相手を持ってしまった。

それは"母"であり、また祖母も真実を隠したことを断罪されるべきである――








混乱の渦の中に、そんな凶暴な感情が芽生え始めていた。



そして同時に、"自分は捨てられた子どもなのだ"という絶望的に悲しい思いが、渦の真ん中で静かに沙市を見つめていた。





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