クロトラ!-妖刀奇譚-
沙市は物心ついたときから祖母と二人暮しだった。
両親はずっといなかった。
だけど、幼稚園に入るまでは自分が人と違うことをあまり意識したことがなかった。
――友だちがいつも一緒にいるのは若い女の人で、自分にとってはそれが祖母だ、ということは分かっていたけど。
幼稚園に入って、お父さん、お母さんという言葉の意味を知ったときには衝撃だった。
父母とは自分をこの世に生まれさせたひとを表していて、自分の保護者である祖母は、その父母を生み出したひとなのだ。
みんなには当たり前のようにそのひとたちがいるけれど、沙市にはいないのだ。
衝撃は受けたけど、世界と自分の大きな段差を知っても、沙市はいじけたりひねくれたりはしなかった。
寂しい思いもしたけど、自分が寂しいよりも祖母に申し訳なく思ったのだ。
"両親がするべき役目を、自分は祖母にさせている…"
そう思っていた。