過去の秘箱


沙織にしては、生まれて初めての義理父に対する大きな抵抗だった。


「何だと!男連れ込む為に、出て行きやがってよ!」


「違うわよ!家を出たのは、お、お、お父…あんたのせいじゃない! 」


お父さんに向かって初めて言った……あんたと……。


「何だと、このアマ!今まで育ててきた恩も忘れやがって!」


髪の毛を鷲掴みに振り回される沙織。


「痛~い、何するのよ~」


「典子に捨てられ、お前にも捨てられ、詩織も出て行った!
皆、どいつもこいつも俺を馬鹿にしやがって! 」


それから、どれだけ殴られたのだろう。


どれだけ時間が経過したのだろう。


か細く小さな錦鯉……大柄な板前に……力で勝てる筈なんてなかった。



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