ね、先生。
「・・・どうして?
 意味わかんないし・・・。」


小さく小刻みする唇を動かしながら、私は聞いた。


「・・・。」


震え出した唇はやがて、手や足、全身へと伝染してゆく―。



小さく深呼吸して一歩先生へと近付く。


「・・・ね?
 私のこと嫌いになったの?」

「いや、そういう訳じゃないっ。」

「じゃ、何で?」

「・・・。」



私は、私の質問に固く閉ざした先生の口を見つめ、さらに一歩近付く。



 ・・・ザッ。


私の踏んだ落ち葉が音を立てる。


その音にも、セミの声にも、反応を示さない先生の唇を

私は背伸びして奪った―。




「・・・・・・ッ・・・。」


グイっとネクタイを引っ張り、唇をより重ね、ゆっくりと離す。


でもそれは、

今までに感じたことのない

とても冷たいキスだった・・・。



「・・・イヤだから。

 ・・・私、イヤだからね。」



一筋の涙が零れ落ちる前に、

私は

その場を先生より先に 立ち去った―。
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