ただ風のように


細道を抜けた先は海。そこは浅瀬の岩場だった。


「……綺麗……」


その言葉は思わず口から漏れたものだった。透き通る海水がでこぼこした岩の上を引いたり満ちたりしていた。


「今日行くところは全部、俺が偶然見つけた場所なんだ。ここは中学のころ無免でバイク乗ってて、さっきバイク停めたところでいきなりエンジン止まっちゃってさ。人を探しにいくのに細道通ったらここについた」


先輩は懐かしそうに細道を見つめた。それから踵を返してサンダルを脱ぎ裾を捲ると海に入っていった。


「そうなんですか。偶然ってすごいですね」


「うん。それにここは綺麗なだけじゃないんだ。もう1つすごいものがある。これだよ」


先輩はしばらく何かを探すように水面を眺めていたけど水の中に手を入れて何かを掴むとそれを私に差し出した。


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