ちいさなたからもの
騒がしい列車内。



家族連れも多かった。



その家族の中には、母親と思える女性が、必ずいた。



父親がいて・・・



母親がいて・・・



子供がいて・・・



皆、楽しそうに笑っていた。



それは、家族の光景だった。



うらやましかった。



俺は、もう二度とあんな光景の中には入れないのだから。



俺は、窓の外を眺め続けた。



窓の外からは、畑なんかも見えた。



向かい側には、桜と父さん。



桜が自分の席をぴょん、と飛び降りる。



そして、俺の隣によじ登ってきた。



「・・・あそんで」



・・・辛い。



「父さんがいるだろ。父さんに遊んでもらえ」



窓のほうを向いたまま答える。



「だって・・・パパは、ねてるから」



「は?」



見ると、父さんは爆睡していた。



仕事で疲れてたんだろう。


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