大切なもの



あの日だってそう。
勢いで言った後悔が顔に出てて、

『大丈夫だよ、気にしてないよ』


ただ、そう言いたかっただけだった。


近付こうとすれば、君の手が押し当てられて……



「……きゃっ!」



体勢が悪かった。
力を抑えた君は悪くなかった。



落ちる瞬間はスローモーション。


君の驚く顔が見えて、手を伸ばした。


『ちぃ君、大丈夫だよ』



実際には短い時間でそれを伝えられるはずもなく、私は落ちた。
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