蜜恋
変な癖




「よし、もういいかな」

「いいでしょーすっかりキレイになったって」

放課後、クラスメイトが校庭や部室、自宅と各々の目指す場所へと向かう中で、私:長岡麻美は黒板の前に立っていた

日直の仕事の一つ、黒板のキレイ具合を親友の須藤小夏に聞くと教壇に両肘をついた格好で賛成の声が返ってくる


「小夏、今日一日手伝ってくれてありがとう」

「何言ってんのー、私の時も一緒にやってくれたんだからこれくらいお安い御用だよ。でも、そろそろいいかな?」


チョークの粉を払って、ブレザーに袖を通しながら私を見ると見せかけて肩越しに視線を向ける

その目の先にはきっと、いや絶対に愛しい人が待ってるんだろう


「小夏!」



ほらね

予想した通りドアの前で手を振るのは隣りのクラスの沢口浩明くんで小夏の彼氏

まだ詳しいいきさつは知らないけど高校入学前から付き合っている二人は私の憧れだったりする

いつかこんなカップルになりたいって理想というよりは目の保養…かな?




「あ、浩明、ちょっと待ってて」


荷物を纏めようと机に向かう小夏にそんなに慌ててこけるなよと声を掛けると同時に小夏が椅子の足に躓いた

はははっと苦笑いを浮かべてから私に向き直る




「相変わらずラブラブだねぇ」

「うーん、そうかな?」

「そうだよ、いかにもお似合いな雰囲気とか羨ましくなっちゃう」

「だったら麻美も彼氏作ればいいのにー」


掲示物の貼られた壁によっ掛かて羨望の眼差しを送るとちょうど鞄を手に持って小夏が近づいてきた


「いいよー彼氏なんて興味ないから」

肩に回された手を丁重に払うと沢口くんの方へと体を向けさせて目の前の背中を押した

ちょっと強めだったみたいでまた躓きかけたけど体勢を整えてから小声で言われる

「恋ってさ、色々あるけどいい物だよ?」


じゃあ明日ねと教室を出ていく二人の背中を見送りながら呟いた




「恋がいい物だってことくらい…知ってるよ……」



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