Fahrenheit -華氏-


「いいじゃないですか~。キャビンアテンダント。僕が行きたいぐらいですよ」


佐々木がさも残念そうに首をうなだれた。


「じゃ、お前が行け」


「あ~、だめだめ。こいつも誘ったけど、その日法事があるんだと」


法事か。それじゃ仕方ねぇな。


佐々木、お前もよくよく運のない奴。


「そいやさぁ啓人、お前柏木さんのことはどうすんの?」


「どうするって?」


俺は束ねた経済誌を床に置いて、裕二をちょっと見上げた。


「柏木さんの噂。システムまで回ってきてるぜ。どえらい契約取ったんだって」


“どえらい”ってどこの言葉だよ。


あ、そう言えばこいつ京都出身だっけね。


てか、うちの会社噂回るの早っ!!


「ああ」


俺は気の無い返事を返した。


裕二は書棚から雑誌を引っ張りながら、続けた。


「自分よりデキる女ってさ、ちょっと引かね?」


「お前はどうなんだよ?」


「俺?俺は畑違いだもん。全然オッケー♪」


「僕も別に大丈夫ですね。むしろ尊敬するって言うか」


ま、佐々木は素直だからなぁ。この性格は年上受けするかも。


「って……やっぱライバル減らないのかぁ」


俺と裕二は顔を見合わせた。


「賭けは続行だな」


「な、何ですか!賭けって!?」


佐々木が割って入り込んでくる。


「佐々木クンには関係ないことなのよ~」


「ま、また部長たちはよからぬことを計画してるんですかっ!?」


「良からぬって…」


そんな言い合いをしていたら、裕二が





「あ!」




と声を上げた。







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