Fahrenheit -華氏-
「はぁ。すごいなぁ。あたしとは別世界って感じ…」
ユカちゃんは、ちょっとうなだれるとため息を吐きながら呟いた。
「んな、大げさな。同じ人間だよ?」
あれ?
でも俺……その感覚、ちょっと前に経験した覚えがあるかも……
あ……
そうだ。柏木さんだ。
俺が彼女に抱いた感情と同じだ。
同じ人間なのに…人間に優劣なんてつけられないのに、勝手に線引いて別世界に居る気になってた。
柏木さんだって俺と同じように楽しいこと、悲しいこと、辛いことだってあるのに…
俺と同じ人間なのに…
信号が黄色になっている。
別にそのまま突っ込んでも良かったけど、俺はブレーキを踏んだ。
何だかそのまま走らせる気になれなかった。
すぐ後ろを走っていた白い車も俺がブレーキを踏んだからだろうか、急ブレーキをかけて止まった。
今のタイミングなら十分行けたから、後続車もスピードをあげていたに違いない。
「悪い」そんな気持ちを込めてちらりと後ろを振り返る。
ちらっと見えた。車体の前方にあるエンブレムが。
街中で良くって程でもないけど、見かける「レクサス」だった。