Fahrenheit -華氏-
「えっ??うーーーーーーーーーん……」
好きか?と問われれば好きな部類に入るけど、それは会社の部下として、人間としてで…男女のそれとは違うと思う。
て、言うか俺は女を本気で好きになったことがないから、その感覚が分からないだけで。
クス
意外にも柏木さんは小さく声を漏らして笑った。
「正直ですね」
唇にかすかな笑みを湛えている。
怒っては―――なさそうだった。
「あ……あの…柏木さん…………」
俺はアタフタと言い訳を考えながらしどろもどろで口を開いた。
「そういう方が楽。好きとか、愛してるとか
正直面倒くさいんです」
へっ―――?
何を言っているのかよく分からなくて、俺は目をぱちぱちさせて柏木さんを見た。
柏木さんはほんのちょっと微笑みながら、俺の首の後ろに手を回してくる。
「あたしを好きにならないで下さい。
そういうの面倒くさいから。
それさえ守ってくれればあたしはいいですよ」