Fahrenheit -華氏-


――――




「ぶぁははははは!」


裕二は腹を抱えて笑っている。


「ないって…ないって~!お前フられてんじゃん!!」


ひー、ひひっと変な笑い声を上げて裕二は椅子から転げ落ちそうになっている。


そのまま落ちちまえっ!


となりの席でバーボンを飲みながら、俺は裕二を睨んだ。


夜の11時。行き着けのバーは仕事帰りのサラリーマンやら、OLたちで賑わっていた。


傷心の俺は、裕二を誘って呑みに来たってわけだが、慰められるどころか笑い飛ばされた。


「あ~だめっ!腹が千切れそう」


涙目になって裕二は目の前に置かれたジンリッキーを一呑み。


液体を喉に通してやっと落ち着いたのか、息を整えながら目尻に溜まった涙を指で拭いている。


「ってか、お前をダメな女っているんだなぁ」


変なところで感心してる。


「女に関しちゃ百戦錬磨の啓人くんも、初の不戦勝ですかぁ。


まだ何にも言ってねぇのに!ふははは!!」


「うっさい!死ねっ」


またも笑い出した裕二に悪態をついて、俺はぐいとバーボンを飲み込む。


「ってことは俺はいけるかな?」


ようやく笑いがおさまった裕二は目尻に溜まった涙を拭い、顎に手をやってポーズを作った。


「あ~無理無理」


俺がダメだったんだ。お前は絶対無理!


俺はそう続けた。




そうであってほしい。


俺がダメで裕二だったらいい、なんて言われた日にゃ一生立ち直れないかもしれねぇ。






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