Fahrenheit -華氏-


Mとの電話で―――


柏木さんが泣いていた。


Mは柏木さんの中に今も住み着いて、彼女を苦しめているのか……



ジェニーの言葉を思い出す。



色々あった、てのは離婚のことなのか―――?




聞きたいことは山ほどあるのに、俺は彼女の本心を知るのが怖くて聞けなかった。


いや……


きっと深く詮索されることを嫌う彼女にあれこれ聞いて嫌われるのが怖かった。



俺は―――



臆病だ。




「何が不倫だ。裕二も俺も、てんで外れてやがんの」


ふてくされたようにぽつりと漏らす。


そんな俺の肩に誰かの手が置かれた。


「スピーチの練習はいいんですか?これから披露宴でしょう?」


音声のない文字だけが俺の耳を通り過ぎていく。


「今はそんなことしてる場合じゃないの。傷心中だから、俺……」


「そうですか。じゃぁスピーチは期待できませんね。では、私はここで失礼します」


その言葉で俺はようやく顔をあげた。





柏木さんが無表情のまま俺の前に立っていた。





「か、柏木さん……」


姿が見えないからてっきり帰ったのかと思ってたけど…


びっくりして俺は目を開いた。






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