Fahrenheit -華氏-


見間違い??


目を擦ってみたが、彼女の姿は消えることがなかった。


柏木さんは腕を組んで、会場の壁に背をもたれさせている。


何で…!!


何で柏木さんが!?


帰ったんじゃないの!!?



『私―――バツ一なんです』



ふいに彼女の言葉が過ぎった。


ドクンドクンと心臓の音が跳ね上がる。


落ち着け啓人。落ち着け……


必死に宥めるも、


「えー…私は桐島くんと同期でありまして。彼は非常に真面目で仕事熱心で……」



『昨日今日思いついて考えた言葉に、お祝いの重みがあるんですかね?中途半場は社交辞令なら却って無いほうが良いと思うんですが』



まただ……


また柏木さんの言葉が俺を惑わす。


「えー…彼は非常に優秀な営業マンでして…」


まるで


『桐島さんも月並みの言葉なんて求めていませんよ?』と言われている気がした。


「………――――」


俺は詰まった。


やべぇ!





全部飛んだ!!








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