Fahrenheit -華氏-

休み時間にコンビニに行くと、俺は栄養ドリンクを買おうと手に取った。


直接的な疲労は感じないけれど、やっぱり肩や腰がどことなく重い。


もう歳かな……


なんてちょっと悲観的になる。




親父にはまだまだ適わないな。


あいつは54だってのに、未だ現役で世界中を飛び回っている。


その体力をちょっと息子の俺に分け与えて欲しいよ。




一本手に取ってレジへ行こうとして、思い直した。


もう一本持って今度こそレジへ行く。






フロアに戻る途中の給湯室で柏木さんがコーヒーを淹れていた。


「お疲れ。コーヒー?」


柏木さんは俺に気づくと、


「お帰りなさい。部長も飲まれます?」とマグカップを軽く持ち上げた。


「う~ん、俺はこれ飲んでから」コンビニのビニールを軽く掲げる。


「そだ。柏木さんにも一本ど~ぞ」


ビニール袋から栄養ドリンクを一本取り出すと、柏木さんに手渡す。


「ドリンク剤……」柏木さんはちょっと意外という風に目を広げた。


しまった!あんまりよく考えてなかったけど、こんなおっさんくさいものあげるんじゃなかった!!


「いや!疲れてたみたいだからっ。ごめん、こんな色気のないもん渡して」


だけど柏木さんは


「ありがとうございます。早速頂きます」と言ってキャップを捻った。


マグカップを片手に、ドリンク剤を一気に煽る。


い…一気飲み。



男らしぃ。




キュンと俺の心臓がまたも小さく音を立てた。


でも空のドリンク剤を、水で流す柏木さんの横顔は




やっぱりどこか疲れて見えた。


だけど男の俺顔負けの仕事をこなしてる柏木さんなのに、その横顔はちっともくたびれてなくて





疲労を滲ませる彼女の横顔は




やっぱりどこかしら美しかった。








< 378 / 697 >

この作品をシェア

pagetop