Fahrenheit -華氏-


「はい。出来ました。どうぞ」


「どうもありがとう」


丁寧に礼を言って俺は上着を受け取った。


仕上がりは―――普段の仕事と同様見事なものだった。


上着を渡すと、柏木さんはすぐにパソコンに向かった。


ホントに俺に興味がないようだ。





でも俺は柏木 瑠華の内面に―――


興味を持った。




―――



「ぃよっ!」


二組の接客を終えた11時頃、裕二がふいに俺のフロアに来た。


「出たな、このスケコマシ」


「お前もだろ?ほらっ、この前言ってた社内ホームページのアドレス持ってきてやったぞ」


「そんなんメールか内線で済ましゃいいだろ?なんっでわざわざ…」


と言いかけて俺は口を噤んだ。


「はは~ん、さてはお前柏木さんに会いに来たな。残念、彼女は今席を外してるぜ」


「どこへ行った?」


「さぁ知らね。トイレじゃね?」


「そっかぁ」


裕二は分かりやすいほど落胆の色を浮かべた。


ふっふっふ。タイミングが悪かったな裕二。愛しの(?)柏木さんが不在で。


俺は内心でほくそ笑んだ。







< 40 / 697 >

この作品をシェア

pagetop