Ｆａｈｒｅｎｈｅｉｔ －華氏－

なかなか帰ってこない柏木さんを待ちきれなくて、裕二は自分のフロアに帰って行った。


ま、あいつも多忙っちゃ多忙だ。


そうそう席を外してられる身分じゃねぇってことだ。


裕二を送り出し、俺は俺で仕事が一段落したのもあってか、タバコを吸いに行くことにした。


この会社は廊下の隅にガラスで張り巡らせられた喫煙スペースがある。


自販機や、腰掛けられるベンチもあってなかなか快適なのだ。


外から覗いて見ると誰もいなかった。


ラッキ。


ゆっくり休憩したいからな。


ガチャリと、喫煙ルームのドアを開ける。


「あ」


俺は思わず止まった。


「あ」


自販機の下でしゃがみ込んでタバコを吸っていた柏木さんも声を出した。


自販機の影でその姿が見えなかったようだ。



「お疲れ様です」


柏木さんは腰をあげることなく、頭だけで会釈した。


「お疲れ……」


タバコ―――


吸うんだ。