Fahrenheit -華氏-

え……?でも携帯の待ちうけは子供の写メだったよ?


俺はてっきり子供好きなのかと思ってたけど……


「部長のお母様は」


柏木さんは何の脈略もなく話を変えた。


「え?おふくろ?」


「ええ、お元気ですか?私は小さい頃一度だけお会いしたんですが」


「さぁ、どうなんだろ?」


「どうって?」


「親父から聞いてない?両親離婚してんだよ」


柏木さんはその事実に驚いたのか、急に顔を上げた。


「離婚……?」


「そ。もう随分前だけどね。おふくろに男ができて、離婚。まぁ親父も仕事ばっかでおふくろをほったらかしにしてたから、寂しかったんだろうね、あの人も」


今なら他人事のように語れるが、当時は俺もそれなりにショックを受けてた。


反対もした。


だけど、二人の意思は強固だった。


「部長はご自分からお父様のもとへいらっしゃったのですか?」


「う~ん、どうだろうね?うち一人息子だし、親父に跡取りが欲しいって言われて、まぁそれならって感じだったかな。


別に親父の会社や資産に目がくらんだわけじゃないけど。


母親には新しい男がいるわけだし、まぁ向こうにとっちゃ俺は厄介者だと判断したわけよ。


だったら望まれて、手元に置かれた方が幸せかなぁ、っとそんな風に思ったわけデスよ」


柏木さんはタバコを口に含むと、ため息のような煙を吐き出した。





「部長はお母様に会いたいと思いませんか?」





< 45 / 697 >

この作品をシェア

pagetop