Fahrenheit -華氏-


柏木さんは俺の指にそっと触れると、ぎこちなく俺の手のひらを握ってきた。


繋げた指先から…掌から……


柏木さんの熱が伝わってくる。


柏木さん……?


俺は隣に並ぶ柏木さんの様子をそっと伺うと、彼女はちょっと俺を見上げてきた。


「すみません。私にはこんなことしかできなくて……」


ちょっと悲しそうに眉を寄せ、上目遣いに俺を見上げていた。


小さな手が懸命に俺の大きな手のひらを、離さないよう握っている。


繋いだ手のひらが…指先が……温かくて、心地よくて、この瞬間忘れかけていた安堵感というものが急激に俺の中を満たした。





大丈夫ですよ。



そう言われてる気がした。






溢れそうになる気持ちを抑えながら、


俺は柏木さんの手を握り返した。




柏木さんは「こんなことしか」と言った。



でも俺には充分過ぎる。




大きくなった気持ちが……



俺の中で急激に育ちあがり、



俺は最早自分自身この気持ちを抑えることができなくなっている。





この手を引き寄せて、小さな柏木さんを俺の胸に掻き抱いたら。


ぎゅっと抱きしめて、何も言わずにそのまま抱き合ったら……



そんなことを考えていると、





エレベーターは目的の階に到着した。






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