Fahrenheit -華氏-
んぇえええええ!!!
ちっ…ちょっと待て―――!!!
額に変な汗が浮いてきた。
だって柏木さん、こんな大きな子供がいるなんて一言も言ってなかったよ。
それにあれが、子供一人産んだ体型か―――!
信じられん!
それにそれにっ!!
「柏木さん、子供嫌いだって…」
「嫌いですよ」
柏木さんはスラリとした脚を組むと、無表情でさらりと答えた。
嫌いだ、と言い切った割りに、この写真の中の柏木さんは凄く―――
優しくて温かい笑顔を浮かべている。
作り物じゃく、そこには確かに深い愛情が存在しているように見えた。
何を考えているのか分からず俺は彼女の目の奥にある感情を探ろうとした。
だけど彼女の瞳の奥にある光は揺らぐことなく、ただ小さな輝きを宿していた。
「じゃぁ何で産んだ……?」
もしかして出来婚??
出来たから仕方なく?
俺の想像をよそに、柏木さんはマイペースに口を開いた。
「あんなに……」
今までに聞いたことのない低い声。
一言では表せない感情が、彼女を支配して、乗っ取ろうとしている。そう見えた。
柏木さんは小さく肩を震わせた。
そして両手で顔を覆うと、体を曲げた。
小さな体からここになって俺はようやく感情を読み取ることができた。
それは
とても大きな悲しみだった。
「あんなに、愛おしい者を手放さなきゃならないなんて―――
それだったら最初から居ない方がいいんです」