Fahrenheit -華氏-


全てを話して、柏木さんはすっきりしたのか、ふぅと大きなため息を吐いた。


俺は……


知らなかったとは言え、心無い一言で随分柏木さんを傷つけてきたと思う。


俺は…


彼女の隣に居る資格なんてないんじゃないか……





いいや。そんなの言い訳だ。


彼女の過去に触れて、知ってしまったから今更ながら足踏みしてるんだ。


情けないな…


こんなんじゃマックスと同じじゃないか。


男を信じられない柏木さんに唯一してあげられること……それは無限の愛で彼女を包むことにあるんじゃないか。


そう


ボディーガードのティムのように強くない。マックスにも面(ツラ)で負けている。


でも俺が唯一勝てるもの……





それは彼女を想う、誰にも負けない気持ちじゃないか。





彼女の悲しみを受け止めてあげたい。


彼女の闇を晴らしてあげたい。




闇……




俺は柏木さんの方に体ごと向けると、彼女を真正面から見据えた。


「まだ……まだ、俺に話してないことあるよね?」


俺は柏木さんの腕をそっと取った。








< 514 / 697 >

この作品をシェア

pagetop