Fahrenheit -華氏-


「え゛!!?」


信じられない、という表情を目一杯浮かべて、緑川が口をぱくぱくさせている。


だがすぐに、疑り深い視線になって俺をちょっと睨んだ。


「…そんなこと言って、嘘なんじゃないですか…?」


…………バレてる…


だがしかし。ここで怯むわけには行かない。


「嘘じゃねぇよ。噂だって流れてるだろ?」


俺はぶっきらぼうに言った。


「…ああ、麻野主任とデキてるとか…」


ちっが~~~ぅ!!そこじゃねぇ!と叫びだしたかったが、俺は必死に言葉を飲み込んだ。


「相手は裕二じゃないけど?」


「…だって部長、見るからに女好きそうだし…女の扱いに慣れてそうだし…。噂はあくまで噂だって……」


ハイ。確かに私は女好きデス。そして扱いにも慣れていマス。


「それに経理の女の子たちに言ってたじゃないですか。付き合ってる人は女の人だって」


んげ!!聞いてたんかよ!地獄耳だな…


「…そっちが嘘。そうでも言わなきゃ引き下がってくれないだろ?」


あたかも本当っぽく、俺はさらりと言ってのけた。


だけど内心、いつ嘘だとばれるかヒヤヒヤ。


緑川は俺の話を納得したのか、してないのか。それでも疑い深い目で俺をもう一度見ると、おもむろに俺の股間を握ってきた。





マっマジで勘弁して!!





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