Fahrenheit -華氏-

きっとこれからもずっと彼女は俺の前で“女”であり続けるだろう。


ずっと……


――――

――


締め日の月末が近づいてくると益々忙しくなった。


裕二との賭けは一時休戦。


とは言っても向こうに締め切りなんてないから、俺の中で、だけど。


と言うのは口実で、それどころじゃなく―――


忙しい。



「柏木さん。これ、お願いできる?明日まで」


俺はファイルやら書類やらで山になった束をどさりと柏木さんのデスクに置いた。


柏木さんはゆっくりと俺を見上げると、


「分かりました」


と言い訳もせずに、頷いた。


柏木さんのこう言うところが好き。


素直で、それでもって答えたことはきっちり守ってやりこなすところも。


「たくさんありますね。僕手伝いましょうか?」


佐々木が柏木さんの前のデスクから身を乗り出した。


「お前はこっち。請求書たまってんだ。作っておいて?」


「……はい。分かりました」


こっちは随分頼りなげだが、それでも俺が頼んだことは時間がかかってもやってくれる。


う~ん…俺もいい部下を持って良かった。




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