月影
「この程度の雨なら、すぐにやむだろう」

小太郎はそう答えると、視線を雨の降る街中へと戻した。

「…じろじろと見てすまなかった」

小太郎の言葉に、彼女は笑った。

「気にしないでください」

服についたしずくを払いのける少女に、また、視線を戻した。

「懐かしい…知人によく似ている気がしたんだ」

小さく小太郎が呟く。

「高校時代のお友達、とかですか?」

彼女に言われて、俺は首を横にふった。

「今はもう、離れ離れになってしまった…大切な人だったんだ」

彼女の自分の名前を呼ぶ声、顔。
それを思い出すと、胸がずきずきと痛んだ。

「すまない、忘れてくれ」

小太郎はそう言うと、また、街の中に視線を戻した。

「また、会えるといいですね」

少女はそう言うと、軒先に手を差し出した。

「だいぶ弱まってきたかな」

それじゃ、と言い残して、彼女は雨の中へと消えていった。


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