オアシス


「え……」

「あ、でもライブには行きますから。その時はまた教えて下さい」

「うん。是非」

「今日、ライブ楽しかったです。一人で行ったのに、楽しめました」

「……ありがとう」

「それじゃ……」

私は電話を切った。

今度こそは一方的に切られる前に私から切った。

電話を切ったあと、ドキドキ感と後悔が交互にやってきた。わざわざ電話で謝ってくれたことに、素直に嬉しいと思った。聡と準平は、兄弟揃って優しい人なんだ……と。

でも後悔もあった。それは、ちょっと喋り方がぶっきらぼうに作りすぎた。怒ってないと言いながらも怒ってるように見せかける……今思えば、つまらない小細工だ。

私は、もっと普通に自分らしくすれば良かったと後悔していた。



シャワーを浴びてとりあえず寝ようとベッドに入るがなかなか眠れない。ギターをひいている聡の姿を思い出す。次に、バラードを心の底から歌い上げている準平の姿を思い出す。

聡の声、上京初日に助けてくれた準平の優しさ、聡の、時にクールに見せる目線、準平の綺麗な手……。
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