The World

「お前、寒くないの?」

確かに、寒い。足が寒さでガクガク震えている。

この人を一目見たかっただけなのに。一言声を聞きたかっただけなのに。

今じゃ、そんなんじゃ足りない。もっと、一緒にいたい。寒いのなんて関係ない。

会えば、貪欲になっていく。

「寒く、ない」

「嘘つけ」

「嘘じゃないもん」

大嘘だ。
だけど、寒いなんて言ったら即帰宅だ。寒いなら帰れって怒られるかもしれない。

とうとう呆れたか、黙って背中が去っていく。

もう、何て言えば上手くいくんだよ。


背中を追っていた視線が、振り向いた先生とぶつかる。
先生は困ったような顔をして、缶を差し出した。

「ほら、これやるから」

少し冷めてしまったココア。程好い温かさが頬から伝わってくる。

「飲んだら、帰って腹巻きして寝ろ」

「腹巻きって……。そんなの持ってないです」

思わず笑いが漏れる。

「うるせぇ。例えだ」

ぬるいココアからは、優しい味がした。先生には似合わない、苦くない、甘い味。

少しでも長くいられるように、少しずつ飲む。

先生が私といる事を選んでくれた時間。


私の頭に手を置くと、困ったような顔で先生は白いため息を吐いた。

顔が自然と綻んでしまう。
先生からそれが見えないように、こっそりと笑った。

―ため息―
< 25 / 30 >

この作品をシェア

pagetop