The World

「ただいまー。叶美ー? 恵太ー?」

はーい、と返事をしようとすると、声よりも先に、口を塞がれてしまった。
天地は反転し、背中がソファーに当たって、ぐわんと視界が揺れた。
恵太の長い睫毛が頬に触れる。私の目は瞳孔が開かんばかりに見開いたままで。

「なっ、何すんのよ! お母さん、帰って来てるのに……っ!」

唇が離れた途端に、私は声を顰めて恵太を睨んだ。それなのに、上にいる恵太はニヤリと笑っている。


「禁じられた恋愛の方が、燃えるだろ?」

そう言って、もう一度触れるか触れないかのキスをした。母親がいる位置は、あと十数メートルしかないというのに。


ふわりと笑うと、彼はソファーを離れていった。

「お帰り。今、姉ちゃん寝てる」

あら、そうなの?と母親がリビングに顔を出した。私は、慌てて目を閉じる。

「ごめん、俺、洗濯物取り入れてねぇや」

「えー、もう! お姉ちゃんが寝てる時くらい、しっかりしてちょうだいよ!」

「うん、わりぃ」

もう、と文句を言いながら、母親はスリッパをパタパタと鳴らしてリビングを出ていった。
薄く目を開けると、恵太は悪戯っぽく笑ってブイサインを作った。





ねぇ、神様。

許されない事なのに、私達が愛し合ってしまうのは、神様が決めた運命?



いつか壊されるのなら、罰が下るのなら、


せめて現在だけは、精一杯愛させて。



せめて今だけは、この熱を冷まさないで。



夢から覚めないで。




壊れるその時まで。



―微熱―
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