孤高の天使
「イヴ!」
ふと頭上から大きな声で名を呼ばれ、見上げると、漆黒の羽を広げて降りてくる悪魔が見えた。
天界にいるはずのないその悪魔、もとい友人に驚く。
「ルーカス、来てたの?」
10年前は少年の風貌だったルーカスも、今や立派な青年となった。
くせっ毛の髪は変わらないが、きっちりと黒衣を着こなし、なかなか様になってきたように思える。
「イリスとリリスは?」
ルーカスに付き従っているはずの双子の悪魔を探して見渡すが、見る影がない。
イリスとリリスの名を出した私にルーカスはあからさまにげんなりとした表情をした。
「魔界に置いてきた。あいつらに毎日毎日へばりつかれたらこっちの神経が磨り減る」
「そんなこと言ってたら魔界の堕天使たちが泣くわよ?“魔王”様」
「ば、馬鹿!俺は仮だ仮!」
魔王という言葉を出した途端、真っ赤になって反論するルーカスはどこか昔の面影が残る。
「そう?イリスとリリスは最近魔王が板についてきたって言ってたけど?」
「板につくってどういう事だよ。ったく…言いたい放題言いやがって」
深く溜息を吐くルーカスだが、照れて赤くなった頬を見る限り満更でもなさそうだ。
ラファエルという魔王がいなくなった今、魔界を統べているのはルーカスだった。
魔王の側近であったことに加え、天界から無事に生還したルーカスを魔界の住人達が魔王として受け入れるのはさほど時間はかからなかった。
圧倒的な魔力を誇っていたラファエルは魔界でも近づきがたく、どこか浮いた存在だったことに比べ、情に厚いルーカスは悪魔たちにとって馴染みやすかったのだろう。
ルーカスは神と天使を恨む堕天使たちの説得を10年にわたり試みてきた。