伝えておけばよかった(短編)
「遼くんも、乗って」


 おばさんが言う。

 おれは首を振った。


「いいです、おれ、自転車あるから」

「そう? 大丈夫?」

「平気です」



 芽生はおばさんに背中を押されながら、助手席に乗り込む瞬間、おれのほうをみた。

 唇が動いて、


 ありがとう


 と、つぶやいた気がした。



 車は走り去って、一人のおれ。

 自転車に乗る。



 急に、胸の奥に、切なさというか、寂しさというか・・・苦しい、どうにもならない気持ちがあふれ出してきた。

 でも、おれは無力でなにもできないことわかっている。
 
 無我夢中で自転車をこいで、その気持ちをかき消すことしかできなかった。
< 30 / 32 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop