課長さんはイジワル
第119話 後悔先に立たず
「よく、来たな」

何となく歯切れの悪い課長の言葉に、どう反応していいのか戸惑う。

「じっ、辞令ですから!」

「来ないかと思ったよ」

「……辞令ですから」

いかん。

課長の美声がビンビン胸に響いて、目がショボショボになる。

「一緒に食事でもしながら話を、と言いたいところだが、これから社外で会議がある」

そこまで言うと、課長は窓の外を見つめたまま黙り込んでしまった。

私はゴクリと唾を飲み込むと、「あの……課長……メールは?」と今にも消え入りそうな声で課長に質問する。

「読んだよ」

心なしか課長の顔が一瞬歪んだような気がする。

でも、気のせいだね。

瞬きして見なおした課長の顔はいつものポーカーフェイスだ。

課長は一呼吸つくと、また考え込んで、それからようやく口を開く。

「だが、その話は後だ。来て早々悪いが仕事をしてもらう」

ぎょっぇぇぇーーーー!

さすがカチョ。

来て早々に仕事をご用意して頂けるとは!!

「パソコンは俺のを使ってよし。パスワードは全て東京本社の時と同じだ。覚えてるか?」

コクンと頷いて、課長の後に続いて、机の上のPCが開かれるのを見る。

「お前のデスクもPCもまだ手配中だから、しばらく作業はここでやってもらう」

一気に仕事モードに突入し、久し振りの課長からの仕事に緊張が走る。

メモ用意しなきゃだよ、メモっ!

課長からの仕事のオファーに頷きつつ、どっと汗が吹き出る。

「これを今日の4時までに。どうだ?出来るか?」

「は、はい!」

そう答えながらも汗がさらに吹き出る。


4時?!

それはかなり無理メな仕事な感じがしますです、課長。

「じゃぁ、頼んだぞ」

なんとかひきつった笑顔で課長を見送った後、茫然とPCを眺め、そしてここ、NYに来たことをめちゃくちゃ心の底から後悔する。


「課長のメールに書類……。全部英語で書いてあるよ」


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