課長さんはイジワル
第124話 聞いちゃいけませんか?
課長の掴んだ手の強さに思わず、ドキリとしてしまう。

「課長?」

「ごめん……かぁさん……ごめ……」

えっ?

課長……

目、開けてないぞ。

それに良く見ると、額には汗が滲んでいる。

「か…ちょぉ…?」

どうしたの?

うなされているのか、課長は眉根を寄せて、体をよじらせながらうわ言のように何か言ってる。

聞えない。

でもなんか不吉な予感に胸がドキドキする。

起こした方が良さげな感じがする。


「課長!?」

「親父!やめろっ!!」

私の差し出す手を払うように、突然、課長が飛び起きる。

肩で荒い息をしながら、課長の大きく見開かれた目がゆっくりと辺りを見回し、やがて、私と目が合う。

「杉原……お前、どうしてここに……」

「大丈夫ですか?課長?」

課長は乱れた前髪に指をつっこむと、大きな溜息をついた。

「課長?」

「あ?ああ……」

そう言ったっきり、課長はぼぉっとしている。

「杉原、今、何時だ?」

「12時3分ですけど」

「11時33分に起こしてくれと言ったはずだが」

「すみません。よくお休みなっていたので……」

「まぁ、いい。遅くなったな。帰る用意を。今から送ろう」

「課長、しんどそうです。もう少し、休んだ方が……」

「いや、大丈夫だ」

「でもうなされてましたし……」

ソファから立ち上がり、スーツの上着に伸ばした課長の手が一瞬止まる。

「うなされてた?俺が?」

コクンと頷き、私は課長を真っ直ぐに見る。

私、間違えてた。

別れるなんて1人で勝手に思い込む前に、ちゃんと向き合わなきゃいけなかったんだ。

課長が何も言ってくれないからって責める前に、逃げずに課長と話し合うべきだったんだ。

まだ、間に合う?

息を大きく吸って、課長の前に立つ。


「いつも課長は私よりも仕事が出来て、大人で……。
もどかしいくらい課長は全てを背負ってて……。
私なんか課長の足手まといで『試練』で……」

いかん、言ってて段々、落ち込んできたぞ。
でも、気を取り直して課長を真っ直ぐに見つめる。

もしかしたら、私、間違えてしまったのかもしれない。
遅いかもしれないけど、手遅れかもしれないけど……。

「でも、私、一人の人間として、課長と真正面から向き合いたい。
私、聞いちゃいけないですか?
課長の……お母さんのこと、とか……その……お父さんのこととか……もそうですけど、課長が私のせいでここにいることとか。
彼女やめちゃう宣言してしまったけど、でも、せめて一緒に働く仲間として、課長のこと知りたいと思っちゃ、力になりたいと思っちゃいけませんか?」





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