鳴かぬ蛍が身を焦がす
巡り合い

後輩の登場


街の中にあるとある美容院。

「本当にいいの?」

そう不安げに聞き返す1人の美容師。

その前にはロングヘアーの若い女性が椅子に座り、じっと鏡の中の自分を見つめていた。

「いいです。もう伸ばしていても意味無いから」

‘響子は長い髪が似合ってる’

‘絶対に切るなよ――’

瞼の裏に記憶された想い人の一言。

でももうそんなのは過去の恋愛になってしまった。

‘――ゴメン。カミさんに子供が’

いつか終わると思っていた恋。

妻ある人と付き合った以上、長くは続かないと割り切っていたのに……。

「バッサリお願いします」

さようなら。

私の一世一代の恋――。








桜が一斉に咲き誇る四月。

学校の校庭に並んだ桜並木が春の訪れを告げる。

「響子~」

名前を呼ばれ私が後ろに振り返ると、
パタパタと小走りで親友が近づいてきた。

「随分バッサリ切ったね!」

終業式まで胸の位置まであったロングヘアーが、始業式にはショートカットになっているのだから親友だって驚きを隠せないだろう。

「もしかして……失恋とか?」

何気ない言葉に私の心臓がドキッ!と大きく跳びはねる。

「まぁ、四月だし心機一転って感じかな」

動揺した表情を作り笑いうまく隠しつつ、私は校庭の門を潜った。
< 1 / 30 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop