鳴かぬ蛍が身を焦がす

「貴方の手に触れたかっただけなんです」

手渡しした時、互いの指先がほんの少しだけ触れた一瞬の出来事。

「先輩は何とも思って無かったみたいだけど、俺は死ぬほど嬉しかった。初めて先輩に触れる事が出来たから」

盛んな時期に感じた淡い晃の恋心。

それは何年経った今も鮮明に思い出せるほど嬉しかった思い出なのだろう。

「今、漸く先輩と同じ舞台に立つ事が出来た。なのにアイツが再び現れたら俺は太刀打ち出来ない」

相手を浮かべたのか手首を机に押し付ける晃の手にグッと力が入った。

「いっ…!離して、晃君」

「先輩が行かないと言うまで離しません」

痛がる私を見ても堅い表情一つ変えない晃。

先生を目の敵にしているのはわかる。

だからといって力ずくで気持ちを動かすなんておかしい。

行く行かないは私の本心で決めるモノなのに……。

「……」

晃の顔色が堅いものから驚きに変わる。

その目に映るのは、
最愛の人が潤んだ瞳でポロポロと涙を零す光景だった。
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